【テーマ】 | ギガビットと電子商取引の展望 |
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【講師】 | 経済学博士 須藤修(東京大学教授:社会情報研究所) |
日本のインターネット利用の状況はといいますと、プロバイダーの国内の数は漸増傾向があります。1997年4月の時点で約1,800社ありましたが、98年の12月の時点で見ますと、3,200社ぐらいまでいっています。従いまして、倍増していると言えるだろうと思います。利用中の企業は58.7%、実験中は11.2%、対象外は30.1%。ここで、暗号とかセキュリティをどのくらい持っているかと言うことを調査したものが警察庁からこの3月発表されております。
実は私はその委員だったんですけれども、委員長は辻井東京工業大学名誉教授ですがセキュリティーは弱い…なされてないのです。ところが最近のアメリカの企業の調査をしますと、そうとう巧妙なハッキング、クラッキングがありますので日本の企業はそうとうセキュリティーを重視していただかないと企業をかなりとられるということもありますので、この対応も急いでいただきたいと思います。それから日本のインターネット利用ですけれども、95年6月の時点で利用者はまだ10万人にいってないという段階だと思います。8万人から10万人程度、それが98年の12月を見ますと、向かって右側から3本目の柱なんですけれども98年12月、大体1,500万人近くはインターネットを利用しています。そして今年の12月の見込みですけれども、2,000万人を突破するだろうというふうに見込まれています。その内訳は、勤務先、学校から家庭、勤務先、学校の両方とも、家庭からということですが、家庭の伸びも今かなり見られているという状況だろうと思います。
それから日本の電子商取引で活躍なさている企業をちょっとご紹介します。日経マルチメディア主催で企業を表彰したものです。実は私はこの審査員でもあったんですけども、日経BP社という日経ビジネスを出している日経新聞の子会社ですが、賞をとられた会社はJTBさんです。要するにインターネットを使って旅行予約、ホテル予約、航空機予約、JRの予約、私鉄の予約、全部できる体制ですけれども、この体制をかなりセキュリティーの高いものをお作りになりました。収益というのはまだたいした事がなくて昨年1年間で1億数千万の規模なんですけれども、なぜ差し上げたかといいますと、旅行代理店業務というのは運輸省の管轄下にありまして、消費者を守るために対面取り引きが前提となっております。対面取り引きをインターネットはできませんから、インターネットで消費者がもっと利用しやすいようにする、ということは消費者保護を若干義戦することを伴いかねないということで、消費者を徹底的に守りながら非対面取り引きを実現するためサーバーの非常に強固なものを作られました。認証とか暗号とかかなり色々なものを組み込まれまして、かなりコストがかかっていると思います。粘り強く運輸省と1年間交渉なさってJTBはこの道を切り開かれたんですね。この功績は大きかった、ということで賞を差し上げました。
それから保険スケアマン、これは自動車保険会社です。ブローカー業務をなさっている名古屋の会社ですが、3ヶ月、昨年10月からなさいまして12月までのデータしかないんですが5,600万円の売上です。今年は5億円の売上を見込んでいらっしゃいます。自動車保険市場というのは今後大きく変化します。現在保険会社は被保険者のデータをかなり入念にとっておりまして、年齢層、地域別の事故率とかいろいろなものをかなり綿密に計算しています。各社ともにそのデータが違います。それによって保険料が違うんですね。年齢、地域でもかなり違います。その複数の自動車保険を検索エンジンで検索して、自分の車種とか自分の年齢とかに合わせて最も合理的な選択ができるようにランキングをつけています。そこで契約できるようなシステムを作っています。これは画期的なものです。この分野を日本で開拓なさった名古屋の保険スケアマンさんに賞を差し上げた次第です。
それからスーパーフィッシングワールド、これは釣具屋さんでサイバースペースにしか店がない釣具屋さんですが、この店はかなり工夫なさっています。先ほど申し上げました Be to Be to Cの構造を実践されてます。在庫は全部バックヤードの流通ルートからとってますので非常にこったサイトです。これは10月に店開き、ウエッブで出されまして1ヶ月で1,200万円の売り上げを達成しました。そしてすぐサーバがパンクしました。と言う具合に日本の釣りマニアは多いと言うことですね。これで我々がこの賞を差し上げたことがどうもきっかけだったらしいけれども日本全国の釣り具やさんが危機感を抱かれまして300社が連合なさってこれと同じようなサイトをたちあげられるということになりまして我々としてはこのスーパーフィッシングワールドもなんとか生き残ってくれと思っております。幕張で授賞式をやったんですけども今年の売り上げは8億円を見込んでらっしゃいます。それから岐阜のエレクトリックコミュニティこれは岐阜の情報がこのウエッブにいくと全部見れます。岐阜の新聞、テレビ、それから岐阜県庁、市役所、町役場、村役場、観光情報、地域コミュニティの伝言板的機能、岐阜にある大学、企業の情報、技術開発の情報全部ここで手に入ります。これを開発なさったのは岐阜県ではございません。西濃運輸さんです。西濃運輸さんのエレクトリックコミュニティ要するにエレクトリックコマースから一歩ぬけでてもっと高度なものにしようと言う企画に我々は評価を与えたいと言うことで賞を差し上げた訳です。このように日本の企業も着実に電子商取引がのびているといえる。しかしまだまだだと言いたい、いわざるを得ない。今電子商取引で何が動き始めているのか、いま出しました画面であります。ワントゥワンマーケットと言います。どういうことかと言いますとインターネットを使って消費者情報データベース化してパーソナライズ化された商品を供給すると言うことです。実はアメリカのサイトにアクセスしますとほとんどクッキーと言う技術を使ってアクセスした人のデータを取ってるはずです。データを加工してマーケティングしてるんですね。消費者情報を加工してより確実なマーケットを開拓しようとしている訳です。そういうビジネスが非常に伸びています。日経の審査員をやってそれぞれのウエッブを全部レイティングする作業をやりましたが、クッキーをだいたい使っています。アクセスした人の情報はとっています。優秀であればあるほどサイトは情報をとっていると言えます。
この分野でもっとも進んでいるのはアメリカです。たとえばCNNニュースがありますけどパーソナライズドニュースオブCNN、要するにインナーネットであなたがアンケートに答えるとそれにあわせてエージェントロボットで編集した情報をそのままインターネットで供給します。そのニュースは新聞のように活字だけではありません、テレビのようにさっと流れてもう一回読めない記事でもありません、全ての要素を満たします。要するにテキスト情報、動画情報、音声情報、めんどくさい時はラジオのようにその記事をロボットに読ませればいいわけです。そうゆうニュースを提供しはじめた。日本ももうまもなくでしょう。それに必要なテクノロジーのために今通産省や郵政省が新しいデータベース構築のために研究開発費を研究者にだいぶ出しています。必要なのはパーソナライズドインフォメーションデータベースの開拓それからそれを検索するインテリジェントエージェントロボットの開発ですね。判断力を持たせたソフトウエアの開発。そしてセキアオンラインシステム、暗号と認証を使った安全確実なネットワークの構築、この三つです。ここの下に写真が出てるのはニューヨークタイムズのローゼン=ブラウン、そしてコロンビア大学の先生、両方とも言っていたのはこういう装備を持たない限りアメリカで企業は生き残れないでしょう。ということをはっきりと言っていました。日本でももうすぐやってくるでしょう。それから国連の電子商取引の担当コーディネイターのブルーノ=ラバーン氏は次のようにいっています。電子商取引をする企業は共同で消費者の行動を追跡し実態を把握する。当然この中で格付けを行う可能性がある。電子決済から始まって電子銀行業務へと進むだろう。ようするに企業は今まで業界ごとに別れていたのがそれを融合して新たなビジネスに転換するだろうといっています。この予言どうりにソニーは動いている。
トヨタ自動車も電子マネーの発行を決めていて、その方向に動いています。トヨタは単なる自動車会社ではない、ソニーも単なる家電メーカーではない。もっとすごい企業になろうとしている。彼らはアウトソーシングしていろいろな企業と協力関係を強化するでしょう。全部を一社でやるつもりはありません。これはビッグバン対応で収益率を重視する経営が求められます。ということはコストをどんどんかけて収益を上げるというこれまでの日本の企業行動はもう通用しない。そこで率を高めるためにはもうけてコストを削減する。ということはアウトソーシングを徹底的に利用する、ということはベンチャービジネスを徹底的に利用するということです。なぜそういうふうになるかといいますとコストをかけて収益は出しているけれど収益率はがあがらないのは株式市場での評価が低くなって株価が下がってしまいます。今後ビッグバンで日本にもアメリカの機関投資家が大量に参入します。そうすると彼らがどういう株を買うかというと収益率の高い、もっと厳密に言うと株主資本利益率が高い企業に投資します。ということは徹底的な合理化が求められます。そういう環境の中でアメリカの大会社はベンチャー企業と協調関係を持ってきたわけです。ということは日本の地域にあるベンチャー企業にも活路が今後開けるといえます。これまでよりもずっとニーズが高まるわけです。ただし競争力のあるそして努力を惜しまないシリコンバレーのようによく働く人たちでなければだめです。
バンキングコストですけれどアメリカ政府の発表のものですけど、現在支店をベースにした銀行経営というのは一取引に1ドル7セントかけていますがインターネットバンキングにしますとわずか1セント要するに107分の1のコストですむわけです。そして日本の企業もこれに取り組みはじめています。さくら銀行が代表的な例ですけれど支店をどんどん廃止していきAmpmというコンビニの中にATMを置くわけです。それに三和銀行は電子マネーを発効して支店を少なくして収益率を高める経営をする。そうしないと株式市場で株価が下がって経営の存続が難しくなるというわけです。これは全ての金融機関でまずおこっているけれど、全ての業界でこれがおこるということです。証券業界も今年の10月に大きな変革があります。重要なのは証券取引手数料の自由化です。証券会社の幹部の方々とミーティングをしますとおそらく40~50社がつぶれるといっています。その中で生き残る証券会社はどういう企業かというとインターネットを使う証券会社だろう。たとえば松井証券という中堅の電子証券取引をやっているインターネットを使っている証券会社があります。もし現在インターネットを使わなければ50人の営業部員が必要なところを5人ですましている。10分の1のコストですんでいます。松井証券は先般新聞紙上に大々的にプレスリリースをなされ10月以降は手数料を大幅に下げる。現在の手数料の75%をカットする、25%でもやっていけるといっています。これについていける証券会社がどのくらいあるか分かりません。やはり50社ぐらいつぶれるのはやむをえないでしょう。それを見込んでソニーは参入するわけです。ソニーも証券取引の手数料をかなり低水準に設定して殴り込みをかけます。おそらく成功するでしょう。これが可能なのはインターネットがあるからです。そしてそれを支える技術としてはもちろん暗号技術、認証、電子署名の技術等が必要になってくるわけです。この技術の開発普及が非常に重要になっていくわけです。
広島大学の方からも今日出ていただいてますがエンジニアリングの先生のこの分野、それからもちろんインターネットのネットワーク技術の分野の研究がより一層重要になってくるだろう。政府は積極的にこの分野に研究費を投入すべきだろうと思います。